Novel

魔法の本

魔法の本 若葉


 学校の七不思議。
 トイレの花子さんや理科室の動く人体模型などがメジャーなものだが、私の学校の七不思議は一風変わったものばかりである。その内の一つが、「どんな質問にも答えてくれる魔法の本」というものだ。
 この学校の図書室は町でも有数の蔵書数を誇るので、一般の人達も利用可能になっている。なので夏休み期間でも開いているのだ。私は、その七不思議の真偽を確かめる為に図書室へとやって来た。
「とは言え、そう簡単には見つからないわよね……」
 私の学校の図書室は、図書館と言っても過言ではないほど広い。というか、本館から少し離れた場所にある建物丸々が図書室なので、もはや図書館である。町のパンフレットにも図書館と紹介されている。
 とにかく私は、特に質問したいことがあるわけではないが、「どんな質問にも答えてくれる魔法の本」を探すために図書室の中へ入っていった。

「うーん……やっぱり見つからないか……」
 一日で見つけられるとは思っていなかったが、それでも気が滅入ってしまう。何せ朝の九時から夕方の六時まで捜索して、ようやく図書室の一階を一通り見終わったのである。三階まで探すのに単純計算で三日かかってしまう上に、本の詳細を知らないのでどうしても慎重に探さなくてはならなくなる。
「閉館時間まで、後三十分です」
 そんなアナウンスが聞こえたかと思うと、帰らなければと思ってしまうことで有名なあの音楽が流れてきた。私はため息をつき、しぶしぶ図書室を後にした。
次の日。私は二階を捜索した。二階は参考書などしか置いてないので探す必要はないのだが、念のため探してみた。当然だが見つからなかった。三日目も同様に三階を探したが、見つからなかった。
 四日目。私は図書室の一階に置いてあるパソコンを使うことにした。このパソコンは図書館内にある全ての本のデータが入っており、タイトルを検索すれば本の概要まで知ることができる優れものだ。私は丸一日かけて魔法関連の本を調べ尽くしたが、特に目ぼしい情報は出てこなかった。
 その後、私はさらに三日をかけて一階から三階を捜索したが大した情報は得られず、「そろそろ止めようかな……」と思い始め、今日見つからなかったら諦めようと思っていたときである。前述の通り、図書室は本館とは別の場所にあり、やたら大きい。なので放課後、学校の見回りの人とは別で図書室の見回りの人がいる。私は偶然、その二人のこんな会話が聞こえた。
「昨日見回りをしてるときにな、何故か一階のパソコンが一つだけ点いてたんだよ」
「ただの電源の切り忘れじゃないか?」
「あのパソコンの電源は一斉に切るからそれはないと思うんだが……」
「それで、どうしたんだ?」
「もちろん電源を切ったよ。先輩に聞いてみると、そういうことが結構起きてたらしい。点検しても異常が見つからないらしいが」
「不思議なこともあるもんだな」
 それを聞いて私は、藁にもすがる気持ちでそのパソコンを確かめることにした。最近は町の治安が良くなっているので、警備が少し緩くなっていると思う。この町は閉鎖的な傾向があるため、警備会社の警備がない。この上なく侵入しやすく思えた。

 閉館時間を過ぎた。
 図書室の警備について調べると、入口のセキュリティは思いの外しっかりとしていたので私は侵入するのを諦め、閉館時間を過ぎても帰らず一階に潜むという方法をとった。警備の人は懐中電灯を使っているので大体のルートはわかるし、床は音が響きにくい材質で出来ていたので忍ぶのは簡単だった。私は警備の人が二階に上がったのを確認し、パソコンを見に行った。
「見つけた」
 私は電源が付いている一台のパソコンを見つけた。画面には、この図書室に収められている本を検索するためのサイトが表示されている。
「どんな質問にも答えてくれる魔法の本ってまさか、この検索サイト?」
 確かに何を聞いても答えてはくれるが、何か違う気がする。
「何で電源が点いてるのかわからないけど、長居するのは危ないし……仕方ないか」
 私は警備の人が戻ってくる前に窓の鍵を開けて外に出て、そのまま家に帰っていった。パソコンの後ろに置いてあるテーブルに、「ちがうよ」と書かれた黒い本があることに気づかず……。

 次の日。これっきりと決めていた魔法の本探しを止めて、私は普通に本を借りに来た。その時に警備の人達が、「昨日点検したときに例のパソコンが、初めは点いてなかったのに帰りに確認してみたら点いてたんだよ。念のために周辺に怪しいものはないか確認してたら近くの窓に鍵が掛かってなかったから、侵入した誰かが電源を点けたんだと思う」
「わざわざパソコンを使うために侵入してたのか?」
「わからん」
「というか、しっかり警備しろよ」
「それな」
 と言っていたのを聞いて、私は心の中で謝罪しておいた。

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